相続財産とは、亡くなった人が持っていた資産や負債、
権利や義務の全てのことです。

ただ、相続財産になるものには、積極財産(プラスの財産)と、
消極財産(マイナスの財産)がある一方で、
そもそも相続財産にはならないものもあります。

そのため、遺産を整理したり探したりする際には、
相続財産になるものとならないものを正確に知っておかないと、
その後の相続手続きで抜かりが出て困ることもあります。

また、相続税の申告が必要な場合には、
亡くなった人の相続財産を明確にしなければなりません。

そこで、相続財産とは何か、
相続財産になるものならない物について、
実際に相続手続き業務を行っている行政書士が解説致します。

この記事の監修者
行政書士 寺岡孝幸の顔写真

行政書士・土地家屋調査士 寺岡 孝幸(てらおか たかゆき)
保有資格:行政書士、土地家屋調査士。
取扱い分野:相続関連手続き全般。

経歴:開業以来17年間、相続手続きに関する業務を全国対応で行っています。
行政書士のプロフィールはこちら

この記事を閲覧することで、相続財産とは何か、
相続財産になるものならない物がわかります。

相続財産とは

相続財産とは、被相続人(亡くなった人)から、
相続人に引き継がれる財産のことです。

民法第896条で、「相続人は、被相続人が亡くなった時から、
被相続人が所有していたすべての権利や義務を引き継ぐ」と定められています。

ただし、亡くなったその人自身のみが持つ権利については、
相続人に引き継がれないため、相続財産にはならないとされています。

第896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

引用元:Wikibooks.「民法第896条 」. (参照 2023-03-24)

亡くなったその人自身のみが持つ権利というのは、
たとえば、運転免許や資格、年金受給権などのことです。

そして、相続財産には、現金や預貯金、不動産、
権利などの積極財産(プラスの財産)だけでなく、
借金や義務などの消極財産(マイナスの財産)もあります。

これらは、原則、相続人にすべて引き継がれますが、
引き継がれない権利や、相続財産にならないものもあります。

相続財産になるもの

まずは、どのようなものが相続財産になるのか、
積極財産(プラスの財産)と消極財産(マイナスの財産)の、
それぞれの具体例を見ていきましょう。

なお、ここで挙げている具体例は、
探すべき「亡くなった人の相続財産リスト」にもなります。

積極財産(プラスの財産)の種類と具体例

【積極財産の種類】【積極財産の具体例】
①金融資産現金、預貯金、出資金、株式、投資信託、仮想通貨、
商品券、プリペイドカード、小切手、国債、公債、社債等。
②不動産土地、建物。
③不動産上の権利賃借権、借地権、借家権、地上権、抵当権。
④動産自動車、貴金属、絵画、骨とう品、高級腕時計、
船舶、美術品、家財道具など。
⑤死亡保険金亡くなった人が受取人の死亡保険金や解約返戻金。
⑥知的財産著作権、特許権、商標権など。
⑦債権貸付金、売掛金。
⑧その他ゴルフ会員権、未収入金、売掛金、
損害賠償請求権、電話加入権など。
(プラスの財産の種類と具体例一覧)

無価値のものや評価が0円になる可能性のものも含まれますが、
これらはすべて、積極財産(プラスの財産)と言えます。

ちなみに、死亡保険金が相続財産になるのは、
亡くなった人が保険契約者で、保険金の受取人の場合のみです。

なぜなら、死亡保険金の受取人が亡くなった人の場合、
受け取ることができるのは、その相続人になるからです。

消極財産(マイナスの財産)の種類と具体例

【消極財産の種類】【消極財産の具体例】
①負債借金、住宅ローン、クレジットカードの未払金、
未払いの代金、未払いの医療費や入院費、
未払いの賃料・水道光熱費・通信費など。
②債務損害賠償による債務、
保証人や連帯保証人としての債務。
③公租公課未納の税金。
(マイナスの財産の種類と具体例一覧)

これらはすべて、消極財産(マイナスの財産)と言えます。

ちなみに、住宅ローンは、団体信用生命保険、
又は、生命保険付きの住宅ローンであれば、
死亡によって残り分の支払い義務はなくなります。

なぜなら、住宅ローンの残り分については、
死亡により、保険会社が支払いをするからです。

以上、プラスの財産とマイナスの財産をすべて把握した上で、
借金などのマイナスの財産の方が多い場合には、
すべて相続放棄するという選択肢もあります。

ただ、すべて相続放棄する場合には、
被相続人の死亡日 又は 死亡の事実を知った日から3ヶ月以内に、
家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う必要があるのです。

なお、実際に亡くなった人の相続財産の調査については、
亡くなった人の財産を調べる方法(財産調査)」で、
具体的にくわしく解説しています。

相続財産にならないもの

亡くなった人のすべての財産上の権利や義務は、
原則、相続人に引き継がれますが、
相続財産にはならないものもあります。

次の例は、相続財産にならないものの具体例です。

  • 葬儀代や香典、法事の費用や埋葬料
  • 系譜、遺骨、位牌、仏壇仏具、墓地墓石などの祭祀財産
  • 亡くなった人以外の人が受取人になっている死亡保険金
  • 死亡退職金
  • 一身専属権(いっしんせんぞくけん)

まず、葬儀代や香典、法事の費用や埋葬料は、
亡くなった後で発生するものなので、相続財産にはなりません。

次に、系譜、遺骨、位牌、仏壇仏具、墓地墓石等の祭祀財産は、
相続人が引継ぐものではなく、祭祀を主宰すべき者が引継ぐものとして、
民法第897条1項で、次のように相続とは区別されています。

民法第897条
1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

引用元:民法 | e-Gov法令検索.「民法第897条 」. (参照 2023-4-3)

系譜、祭具及び墳墓など祭祀財産及び継承者については、
祭祀財産とは?祭祀財産の例と継承について」で、
くわしく解説しています。

次に、死亡保険金ですが、亡くなった人が保険契約者で、
保険金の受取人が相続人の内1人や第三者になっている場合は、
相続財産にはなりません。

なぜなら、その場合の保険金は、
その受取人固有の財産になるからです。

ただし、この場合の保険金は、みなし相続財産として、
相続税の課税の対象になることがあり注意が必要です。

次に、一身専属権(いっしんせんぞくけん)というのは、
その個人のみが持つ権利で、具体的には次の権利のことです。

  • 運転免許
  • 国家資格
  • 医師免許
  • 年金受給権
  • 生活保護受給権
  • 親権者の地位
  • 雇用契約上の労働者の地位など

つまり、亡くなったその人だけの資格や権利については、
相続人には引き継がれないということです。

なお、一身専属権とは何かやその具体例については、
一身専属権とは?一身専属権の具体例」で、
くわしく解説しています。

みなし相続財産

相続税の手続き上、相続財産とみなされるもののことを、
「みなし相続財産」といいます。

「みなし相続財産」は、被相続人の財産ではありませんが、
相続税を申告する際には相続財産として扱われ、課税対象になるものです。

代表的なものとして、次の財産があります。

  • 亡くなった人以外の人が受取人になっている死亡保険金。
  • 死亡退職金など。

死亡保険金については、受取人が指定されていれば、
受取人の固有の財産なので、相続財産には含まれません。

しかし、相続税法上では、相続で受け取ったものとみなされ、
一定の額を超えていると「みなし相続財産」として、
相続税の課税対象になるのです。

以上、相続財産とは?相続財産になるものならない物について解説しました。

次に、相続財産の調べ方については、
亡くなった人の財産を調べる方法(財産調査)」で、
具体的にくわしく解説しています。

積極財産や消極財産の具体例をもっと知りたいという方は、
積極財産とは?積極財産の具体例」と、
消極財産とは?消極財産の具体例」を参照下さい。